スマホやタブレットの使いすぎが子どもの眼球の形を変える?

子どもの近視が増加傾向にある一因は、
身近に当たり前のように存在するデジタルデバイスかもしれない

子どもの近視が増加傾向にある一因は、身近に当たり前のように存在するデジタルデバイスかもしれない
画像素材:PIXTA

いまの子どもたちは、言うなれば“スマホネイティブ”。

物心ついた頃から当たり前のように存在するスマホやタブレットを、子どもから遠ざけることはもはや難しいかもしれません。
しかしスマホやタブレットを使いすぎると、子どもの眼球の形が変わってしまう。
そんな恐ろしい話があります。
デジタルデバイスが子どもに及ぼす影響について考えるため、まずはヒヨコを使った実験をご紹介しましょう。

2グループに分けたたくさんのヒヨコを、一方は凸レンズのゴーグルを装着させて育て、もう一方は凹レンズのゴーグルを装着させて育てました。凸レンズグループは遠くのものに、凹レンズグループは近くのものにピントが合った状況を人為的につくったものです。
一定期間を置いたあとにすべてのヒヨコの眼球を調べた結果、凹レンズグループのヒヨコの眼軸長(眼球の奥行きの長さのこと)は伸び、凸レンズグループのヒヨコの眼軸長は縮んでいることがわかりました。

動物の目は、頑張って何かを見ようとせずに力を抜いていると、遠くのものにピントが合うようにできています。
凸レンズのゴーグルで育てられたヒヨコは常に遠くにピントが合っていたため、眼軸長が縮み、一方の凹レンズのゴーグルで育てられたヒヨコは、常に近くにピントが合っていたため、眼軸長が伸びてしまったと考えられるのです。

軸性近視という状態

眼軸長が伸びると、遠くを見るときにピントの合った像が眼球の奥の網膜まで届かなくなり、軸性近視という状態になります。近年、子どもの近視のほとんどは、この軸性近視であることが明らかになっています。
つまり、近くにピントを合わせて育ったヒヨコは近視になりやすかったということになるのです。

医学博士・眼科専門医の木下望先生に、近くのものを見続けると眼軸長が伸びて近視になるのはなぜなのかを聞いてみました。
「近くのものを見るときほど、目の中の毛様体筋を使って近くにピントを合わせなければならなくなります。長い時間近くを見続けると毛様体筋の疲労が増加し網膜の後ろにピントが合うようになり、それを補正するために眼軸長が伸びて近視になってしまうのです」

“30×30ルール”

子どもを対象にした調査によると、目からの平均的な距離は、本では31.3cm、タブレットでは24.2cmだったそうです。
スマートフォンはタブレットよりも小さいため、より顔に近づける傾向にあり、20cm以下ではないかと言われています。
本とデジタルデバイスの間の差は、それほど大きなものではないと思うかもしれません。でも木下先生は、両者の間に大きな分岐点があると話します。
「目からの距離が30cm以上と30cm以下では、有意に30cm以下の方が近視になりやすいという論文があるのです」
デジタルデバイスが子どもの目の眼軸長を伸ばし、近視増加の大きな原因になっていることは、どうやら間違いなさそうです。

木下先生は、コロナ対策で子どもが家にこもりがちになった結果、スマホやタブレットとにらめっこする時間が大幅に増え、ますます近視を増やしているのではないかという懸念を口にしました。
実際、すでに世界中から続々と、その影響を危惧するレポートが発表されているのだそうです。
「近視にならないようにするには、スマホやタブレットを30cm以上離したうえで30分に一回は休憩して遠くを見る。これを心がけるだけでだいぶ違うと思います」(木下先生)
この“30×30ルール”を、ご家庭で実践してみてはいかがでしょうか。

〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)

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