近視の予防
外遊びを1日1時間多くするだけで、

近視の急激な増加
子どもの近視には、両親からの遺伝という要因が大きいことはすでにわかっているものの、近年の近視の急激な増加や近視になる時期の低年齢化は、遺伝だけでは説明できなくなっています。最近の研究では、勉強や本、マンガ、スマホなど近い距離での作業時間が長くなっていることに加えて、外遊びやスポーツなど屋外での活動時間が短くなっていることが、近視急増の原因として注視されています。子どもの外遊びを軽視してはいけません。実際に、“1日2時間以上の屋外活動時間を確保することができれば、両親からの近視の遺伝リスクのある子でも、近視になる割合が低くなった”という海外の報告もあります(図参照)。
屋外活動による近視抑制のオーバービュー

両親が近視だった場合でも、週に14時間以上(1日あたり2時間以上)の屋外活動をしていれば、
近視になる割合が1/3以下になることがわかります。
Jones LA, et al : Parental history of myopia, sports and outdoor activeties, and furure myopia.
Invest Ophthalmol Vis Sci 48:3524-3532, 2007 より改変して引用
外で長く遊んでいるだけで、近視になるリスクを減らすことができるなら、子どもにとっては大歓迎! うれしい予防法ですね。しかし、現実にはどうでしょうか。今どきの子どもたちは、小学校入学前から多忙です。塾や習いごとでスケジュールが埋まり、さらに昨年からはコロナ感染予防のために学校でもオンライン授業が導入され、外遊びも自由にできない状況が加わりました。“1日平均2時間”という外遊びの時間を確保するのは、難しいのではないでしょうか。
近い距離で目のピントが固定されてしまう状態が長時間続けば、近視の進行を速めることは容易に想像がつきます。本やスマホ、タブレットでの学習や遊びをさせるなら、せめて30分ごとに1回は休憩を入れて外を見たりすること、長時間の作業はさせないことを守るようにしましょう。また、スマホやタブレットは、3歳になるまでは使わせないことも重要です。上に兄姉がいる場合は難しいかもしれませんが、3歳未満の子どもの目は構造的にも未成熟であり、近い距離で人工の光を発するモニタを凝視することの悪影響が懸念されています。
十分かつ適正な明るさ
さらに、時間だけでなく、明るさの問題もあります。室内で作業をするときには、十分かつ適正な明るさ(照明)が必要であり、明るさの度合いを測って示したものを「照度」といいます。一定の表面積が一定時間に受ける光の量を数値化したもので、「lx:ルクス」という単位で示されます。JIS(日本産業企画)が推奨する「JIS照度基準」というものがあり、戸建て、集合住宅を問わず、各部屋や共用部に必要な明るさの目安が示されています。たとえば、キッチンや食堂なら50〜100lx、勉強したり本を読んだりするときは500〜1,000lx、廊下や階段は30〜75lxといった具合です。私たちは、昼間はもちろん、夜でも電気を付けていれば室内でも十分に明るいと思っていますが、実は、それは大きな間違い。屋外の照度は、快晴の昼間ではなんと100,000lx、曇りの日でも約30,000lxなのです(ちなみに、満月の夜は約1lx)。照明器具の光は、太陽光にはとても叶わないということですね。
さらに、文字を読むときには、背景と文字とのコントラストも問題となってきます。コントラストの低い(はっきりしない)文字媒体を読むと目が疲れやすいだけでなく、スマートフォンなどのモニタの場合は、画面の外と画面との明るさに差があるとやはり目が疲れることがわかっています。したがって、部屋の明るさ(照度)は、画面の明るさ(輝度)に合わせると疲れにくくなると考えられています。
〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)
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