歩きスマホがなぜ悪いか子どもにきちんと説明できますか?

歩きスマホがなぜ悪い?眼科医たちが警鐘を鳴らす
“目に映るものすべてが見えているわけではない”という事実!

歩きスマホがなぜ悪い? 眼科医たちが警鐘を鳴らす“目に映るものすべてが見えているわけではない”という事実!
画像素材:PIXTA

加速度的に社会に浸透したスマートフォン

2007年に米アップル社のiPhoneが発売されて以降、加速度的に社会に浸透したスマートフォンは、2010年代に入ると一種のインフラに昇格し、私たちの生活から絶対に切り離せないアイテムとなりました。
スマホのメリットについては、今さら言うまでもありません。
でも、スマホ依存症や視力低下など、デメリットも次々と指摘されていることはご存知のとおり。“歩きスマホ”も、そんなデメリットのひとつです。
往来を歩きながらスマホ操作する人が増え、人や車、建造物との接触、段差での転倒、駅のホームからの転落など、死傷事故が多発しています。

歩きスマホの危険性

条例で取り締まっているところもありますが、大人もついやってしまいがちな歩きスマホの危険性を、子どもにきちんと認識させることはできますか?
実際にたくさんの事故が起こっていて、怪我したり亡くなったり、自分だけではなく他人を傷つけてしまったりした例まであることをいくら説明しても、子どもは生返事するばかり。そんな悩みをお持ちの保護者の方もいるのではないでしょうか?
人生経験の乏しい子どもは、よほど身近で起こったことでもなければ、そうした情報を我が身に置き換えては考えられません。
それより、スマホを見ながら歩いても周囲のものが意外と見えていたという自分の経験や感覚を優先し、「ちゃんと見えているから大丈夫だ」と独断しがちです。

人間の視野は、健康な大人で左右180〜200度、上下120〜130度程度もあります。
子どもの視野は大人より狭いとはいえ、上下左右のものが広い範囲で見えているので、“自分は大丈夫”と思いがちのようです。

しかし実際には、視野内のすべてのものがしっかり見えているわけではないと言うのが、二本松眼科病院副院長の平松類先生です。
「前方視野のうち、ものを明瞭に判別できるのはほんの一部。“有効視野”の範囲内だけなのです」
有効視野は、大人でも左右約30度・上下約20度しかありません。
さらに、焦点をあててはっきり見ることができる“弁別視野”と呼ばれる範囲は、上下左右とも、わずか数度以内とされています。
  • 前方視野 ▶ 
    大人でも左右約30度・上下約20度

  • 弁別視野 ▶ 上下左右とも、わずか数度以内

ではなぜ、子どもは(大人もそうですが)、有効視野の外側にあるものまで、しっかり見えていると思いこみがちなのでしょう。
再び平松先生に尋ねてみました。

「有効視野の外側でも、光っているものや動いているものは見えやすいからでしょう。視界の脇のほうから走ってきた友達を見つけられたというような経験が、勘違いを引き起こす原因になっているのです。スマホを見ているとき、有効視野のほとんどはスマホに奪われています。その外にある危険なものすべてが動いたり光ったりしてくれればいいのですが、そうとは限りません。歩きスマホで階段を踏み外したりしやすいのは、段差は動きも光りもしないからです」(平松先生)

マリオット盲点

さらに人間の目の構造上、有効視野内であっても実際にはまったく見えていない“マリオット盲点”と呼ばれるゼロ地帯が存在します。
でも人間の脳は、そうした盲点をも勝手に補完し、見えていると錯覚させてしまう機能を持っています。
つまり、歩きスマホは危険がいっぱいなのです。

話は唐突に変わります。
薪を背負い、本を読みながら歩く勤勉な姿が子どもたちの模範になるということで、昭和初期から日本の多くの小学校に建てられた二宮金次郎像が、ここ10年ほどの間に次々と撤去されています。
撤去理由は“戦時教育の名残である”、“児童労働を肯定的に扱っている”など、現代の社会にそぐわないというものが多いようですが、それを上回る最大の理由は「歩きスマホを連想させるから」。

時代ごとの大人の都合で、勝手に持ち上げられたり下げられたりするなんて、天国の二宮金次郎にとってははなはだ迷惑な話でしょう。
それに、二宮金次郎像を撤去するより、世間の大人の意識を改善するのが先だと思われた方も多いかもしれません。
“子は大人の鏡”と言われるとおり、子どもは保護者をはじめとする身近な大人の行動を常に真似して育つからです。
だからこそ、まずは大人がしっかりと歩きスマホの危険性を知り、やめることが大切です。

そして、自分の“見る力”を過信してしまっている子どもには、有効視野の外側が実際には見えていないことを、広く安全な場所で大人がサポートしながら、実験して示してあげるといいかもしれませんね。

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