子どもと読む目の絵本シリーズ

医師がすすめる「目」について、親子で考えるきっかけになる本

医師がすすめる「目」について、親子で考えるきっかけになる本──子どもと読む目の絵本

『みえるとか みえないとか』(アリス館)



「遠くがよく見えるほど、いい目だから」「小さいうちから近視になってしまってかわいそう」──こんな先入観を抱いている親御さんが少なくないようです。もちろん、近視が極度に進むことは避けたほうがいいので、早く見つけて治療を始めることが望ましいのですが見えかたには個人差があり、ひとつの個性であるともいえます。だからこそ、自分の目や「見えること」についてもっと興味をもってほしいと私は考えます。そのきっかけになるすばらしい本を今回はご紹介します。

この本の主人公「ぼく」は、いろんな星の調査をする仕事をしている小さな宇宙飛行士。宇宙船に乗ってある星に降り立ちますが、その星の住人たちは後ろにも目がついていて、前も後ろも一度に見ることができるらしいのです。

当然、前しか見えない「ぼく」は、その星ではめずらしい存在です。「後ろが見えないなんて不便だし、かわいそう」と同情されたあげく、「すごーい!ちゃんと歩いてる!」「みんな、よけてあげて!」と気をつかわれて、ヘンな気持ちになります。だって、地球では後ろが見えなくて当たり前ですからね。

その星には、「生まれつき全部の目が見えない」人もいました。「ぼく」がその人に話を聞いてみると、毎日暮らしている世界の感じ方が、自分とはずいぶん違っていることがわかりました。外を歩くときには杖が必要だし、同じ容器に入っている食べものは、食べてみないと味の区別がわからないなど、不便なこともたくさんある反面、空気の匂いの違いを感じたり、音楽の才能を発揮したり、「見えないからこそできること」もたくさんあるのです。

さらに、お話は目の見えかたの違いだけでなく、人はみんなそれぞれちょっとずつ違うことへと発展し、体の特徴や見た目の違いによって、さまざまな見えかたや感じかたがあることを「ぼく」の言葉で説明していきます。むずかしいテーマでありながら、かわいらしい絵とセリフでストーリーが進行していくので、子どもでも飽きずに何度も読みたくなる1冊です。

この絵本は、すべてひらがなで書かれていますが、実は大人にも読んでほしい大切なメッセージがたくさん込められています。付録としてついている「みえるとかみえないとか ができるまで」という小さな四つ折りの解説の中では、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)という本の著者であり、身体論などを研究する美学者の伊藤亜紗さんと、その本をヒントにして『みえるとかみえないとか』を制作した人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんの対談も紹介されています。

障がいや見た目が違うことから目を背けず、自分とは異なる状況で生きている人がいることを知る経験は、子どもの成長のためにとても大切なこと。さまざまな個性を認め合い、誰かが困っているときに、ごく自然に手をさしのべられる心を育んでいきたいですね。この楽しい絵本を一緒に読みながら、目を大切にしなければいけないこと、近視や遠視など、いろいろな見えかたがあることについて、お子さんと語り合ってはいかがでしょうか。

推薦者/宇井牧子先生(CS眼科クリニック院長

『みえるとかみえないとか』
ヨシタケシンスケ/さく  伊藤亜紗/そうだん
(アリス館、2018年)

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