子どもの近視治療薬”低濃度アトロピンは、何歳まで使えるのか

治療が効かない!?手遅れの年齢とは

治療が効かない!?手遅れの年齢とは
画像素材:PIXTA

子どもの近視治療の期限

「子どもの近視治療ができず、手遅れになる可能性がある」
そう聞くと、自分の子どもは間に合うのか?と不安になった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そもそも近視は、眼軸長(目の奥行きの長さ)が伸びることによって進みます。身長の伸びと同じように、眼軸も長くなっていき、それに伴う形で視力が低下していきます。

眼軸長の伸びるスピードは、若ければ若いほど速く、しだいに緩やかになっていきます。つまり、ある一定程度の年齢を超えると、治療を行っても効果が薄く、意味がなくなってしまうのです。

さらに残酷な事実として、一度伸びた眼軸長は、現在の最新治療をもってしても元に戻すことはできません。したがって、近視がはじまったらできるだけ早い時期に、治療を開始する必要があります。
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では、最低でも何歳くらいまでに治療を開始しなければならないのでしょうか?

今回は、近視の進行を抑制する効果が認められている治療のなかでも、特に注目を集めている低濃度アトロピン点眼薬による治療を例に、子どもの近視治療の期限について見ていきたいと思います。

低濃度アトロピンが手遅れになる年齢についてお話をうかがったのは、CS眼科クリニックなどで診療をおこなっている医学博士・眼科専門医の木下望先生

「近視は、発症年齢が低ければ低いほど、どんどん進んでしまいます。小学生以上で言えば低学年がもっとも進みやすく、小学校高学年、中学生と年齢が高くなるにつれ、進行スピードは緩やかになっていきます。そのため、小学校の低学年で発症した場合は、何もしなければかなりの高確率で強度近視になってしまいます」(木下先生)

木下先生によると、近視の原因となる眼軸長の伸びは、小学1年生から3年生では年間平均0.47ミリなのに対し、小学4年生から6年生で同0.32ミリ、中学生になると同0.18ミリになるのだそうです。
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単純に比較すると、低学年の小学生は中学生の約2.6倍のスピードで、近視が進行しやすいということになるのです。
そして高校生になると眼軸長の伸びは年間平均0.09ミリ、大学生になると同0.03ミリになります。つまり、近視の進行がほぼ止まる時期は、大学生以上ということになります。

以上のことから、低濃度アトロピンが手遅れになる年齢がおのずとわかってくるでしょう。
発症年齢が低いほど進行が早く、強度近視になってしまう可能性が高いので、近視の兆候が出てきたら、なるべく早く低濃度アトロピンの使用を開始するべきですが、眼軸長の伸びが止まってから使っても意味がありません

もう一度、木下先生に聞いてみましょう。
「近視の進行抑制治療で最も効果が高いのは、オルソケラトロジーと低濃度アトロピンの併用です。そして、そうした治療は眼軸長の伸びが大きな低年齢の子どもほど効果が見込めます

中学生は小学生ほどの効果は見込めませんが、ある程度は眼軸長が伸びるので、まだ積極的に治療をするべきでしょう。しかし、高校生になると眼軸長の伸びは鈍化し、大学生になるとほぼ止まるので、近視の進行抑制治療をしてもあまり効果は見込めません。

もちろん個人差はありますが、敢えて『手遅れ』という言葉で線を引くなら高校生~大学生以上、つまり18歳前後ということになるでしょう」
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近視の原因となる眼軸長の伸び率は、体の成長とほぼ比例するとも言われています。
つまり身長が伸びる年齢の頃は眼軸長も伸びやすいので、低濃度アトロピンなどを使って近視の進行を抑えることができますが、身長の伸びが止まるくらいの年齢では、使っても効果が薄いということになるのです。

「手遅れ」というのはちょっと怖い言葉ですが、間違いなくそうなってしまう年齢があるので、お子さんの近視治療はできるだけお早めに!

〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)

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