もともとは●●用に使われていた近視の最新治療薬!?

ズバリ!近視進行を抑制する
「低濃度アトロピン」って何?

ズバリ!近視進行を抑制する「低濃度アトロピン」って何?
画像素材:PIXTA

子どもの遠視の検査のときに使われていた薬です。

子どもの近視をなんとかしてあげるためにも、「最新治療を受けさせてあげたい!」と思う方は多いと思います。それと同時に、「実績がまだまだの治療法は不安が残る……」と心配される方もいらっしゃるでしょう。

子どもの近視の進行を抑える最新治療のなかでは、その手軽さや効果などから、“低濃度アトロピン点眼薬”が注目されています。近視進行を抑制できる最新の治療薬として、特にここ数年、世界中で使用されはじめています。

今回は、そんな不安を少しでも取り除くため、
「アトロピンは、もともと何に使われていたのか」
「どのように開発されたのか?」
「効果はどうなのか?」
といった、低濃度アトロピンの正体について探っていこうと思います。

この記事を読めば、最新治療である「低濃度アトロピン点眼薬」を正しく理解したうえで、お子さんの近視治療について考えることができるようになるでしょう。

低濃度アトロピンを理解するにあたって、目のことはさっぱりな筆者でもわかるような形で、子どもの視力に関する診療と研究をライフワークにしている医学博士・眼科専門医の木下望先生にお話をしていただきました。

では早速、木下先生にお話を伺っていきましょう!

――ざっくりした質問ですけど、“アトロピン”って何なのですか?

木下先生「眼科ではもともと、子どもの遠視の検査のときに使われていた薬です。遠視の子どもの眼は調節が強すぎるので、度数を詳しく調べるためにはまず調節力を麻痺させなくてはなりません。そのために使われていたんです」

――遠視の検査薬だったんですね。

木下先生「遠視を検査するには眼の調節力を完全に麻痺させなければならないので、使われるアトロピンは、1%という比較的高濃度のものでした。差すと瞳孔が開きっぱなしになってまぶしさを感じ、近くのものが見えにくくなるという副作用があるので、常用は不可能な薬です」

――その薬が、近視抑制に転用されたわけですか?

木下先生「アトロピンに近視進行抑制効果があるのではないかと最初に考えたのは、シンガポールの先生です。濃度1%のアトロピンを右目に差し、左目は何も差さずに比較する実験結果を2006年に発表しました。結果は、右目の近視進行が非常に抑制されたというものでした」

――すごい発見ですね。

木下先生「そうですね。でも、薬の効果が続いている間はやはり瞳孔が開きっぱなしになるのでまぶしく、近くのものを見るには老眼鏡が必要でした。だから、治療薬としては使えないということで、そのときは普及しませんでした」

――あれれ、そうなんですね。

――では、治療薬として成立するのはもっと後だったんですか?

木下先生「濃度1%だから副作用が強く出るわけで、もっと薄めたらどうなるんだろう?という研究がされたのが2012年のことです。それで0.5%、0.1%、0.01%の試薬で比較してみたら、0.01%だったら抑制効果が保たれているうえに、まぶしくないし調節力も維持されるので日常的に使えるという結果が得られました」

――いよいよ、使える近視進行抑制薬ができそうですね。

木下先生「その後もアトロピンの研究は続き、やはり濃度0.01%では効果が弱すぎるのではないかという疑問も出てきました。そこで香港のグループが調査し、0.01%、0.025%、0.05%の効果が比較されます。その結果、0.05%は効果が一番強いのですが副作用も一番出やすく、点眼を中止した後のリバウンドも一番強いことがわかりました。

2021年に報告された国内の臨床試験では、濃度0.01%の点眼薬に近視進行抑制効果があることが再確認されましたが、2012年の報告と比べてかなり弱い抑制効果でした。

そのため中間の0.025%はちょうどいいんじゃないかということで、濃度0.01%に加えて0.025%の2種類の濃度のアトロピンが製造されるようになりました。ちなみに効果をもたらすメカニズムはまだはっきりわかっていないのですが、眼軸長の制御にかかわる網脈絡膜に薬液の成分が働きかけているのだろうと推測されています」

――近視の原因となる眼軸長の伸びが抑えられるわけですね。わかりました。先生、ありがとうございました。

近視進行の抑制効果が認められる低濃度アトロピンについて、おわかりいただけたでしょうか?近視の最新治療を正しく知っていくことが、大切なお子さんの目を守ることにつながります。
ズバリ!近視進行を抑制する「低濃度アトロピン」って何?
画像素材:PIXTA

下記の関連記事では、低濃度アトロピン治療を含めた、最新治療5選を紹介しています。
お子さんの視力に不安を感じている親御さんは、ぜひご覧ください。
〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)

人気記事

近視は治らない?

子どもを近視から救う?専門医が話す最新治療5選

  • ちなみに、メガネあるいはコンタクトレンズを使って、遠くのものにピントが合うようにすることはもちろん可能です。医学的には“屈折矯正”といいますが、それはあくまでも対症療法であって、近視の原因を取り除くものではありません。それどころか、かえって近視を悪化させてしまうケースがあることもわかってきました。 近年、広く行われるようになっている“レーシック手
  • 子どもを近視から救う?専門医が話す最新治療5選

近視の治療最前線

世界注目の近視の進行を抑える方法とは?〈前半〉急増している子どもの近視。治療のタイミングを逃さないで!

  • 点眼薬による近視の進行抑制治療 子どもの近視に関する研究は、特にアジア各国でさかんに行われています。日本をはじめ、韓国や中国などでは幼少期から近視になる子どもが多く、臨床研究でも、世界をリードしています。なかでもこの数年でさかんに行われるようになったのが
  • 世界注目の近視の進行を抑える方法とは?〈前半〉急増している子どもの近視。治療のタイミングを逃さないで!

関連記事

近視にかかわる「目の奥行きの長さ」は簡単に測れる!?

視力検査だけじゃ不十分?真の近視測定法とは?

  • 「光干渉眼軸長測定装置」子どもが近視かどうかを知る方法として最も身近なのが、視力検査だと思います。もちろん非常に大切な検査ですが、そのときの体調などにも左右されたり、勘であたったりすることもあり、視力がきちんと計れないこともあります。「もしかして、実際はもっと視力が悪い可能性があるってこと
  • 視力検査だけじゃ不十分?真の近視測定法とは?

統計的に初めて証明された、子どもの近視の実態

近視の進み具合が、小学6年生と成人で同じに!?!

  • 『児童生徒の近視実態調査』小学6年生の近視の進み具合が、成人と同じに。そんなまさかと思う方もいるかもしれませんが、これ、文部科学省が6月に公表した『児童生徒の近視実態調査』で、近視の原因とされる「目の奥行きの長さ」(眼軸長)の伸展の度合いからわかった事実です。「
  • 近視の進み具合が、小学6年生と成人で同じに!?!

PAGE TOP